「井出ちゃんぽん」は佐賀県武雄市に本店を構える創業70年の老舗ちゃんぽん店だ。
創業者が本場長崎で味わったものを独自発展させたというちゃんぽん麺は、むせ返りそうな豚骨臭ムンムンのこってり白濁スープの上に、肉、野菜、かまぼこなど、うずたかく盛られた具沢山が売りもの。普通サイズでも一般的なちゃんぽん麺より量が多く、着丼と同時に「食いきれるのか!?」という一抹の不安がよぎるものの、箸を進め始めると意外にもペロリと完食できてしまうあたりが人気の所以だろう。店内には女性客の姿も多い。きくらげと生卵をトッピングした「特製ちゃんぽん」もあり、デカ盛り愛好家のハートと胃袋を鷲掴みにして離さない。
近郊住民のソウルフードどであることは言うに及ばず、現在はフランチャイズ展開して佐賀、福岡県下の数店でも味わえるようになった。それでも総本山としての武雄市の本店へは週末ともなれば全国から多くのファンが足を運び、行列が絶えない。
そんな井出ちゃんぽん本店だが、現在は休業を余儀なくされている。
ここ数年、西日本地域の夏場の記録的豪雨が毎年のようにニュースで報じられるようになった。
佐賀県武雄市でもこの8月の豪雨で六角川が氾濫、井出ちゃんぽん本店も1m以上が水に浸かった。
現在は11月中の営業再開を目処に復旧作業が進められているそうだが、2019年の豪雨でも浸水被害に見舞われ2,000万円を投じて修繕、その間、新型コロナとも対峙しながらようやく商売も元通りになったところへ今回の被災という災難つづきだ。地元メディアの取材を受けた現社長はやるせない胸の内を吐露し、今後、創業の地を離れ洪水の心配がない安全な場所への移転も検討するとのこと。
しかし、新興の住宅地でもない、古くからそこに居を構える民家や商店が被災する昨今の報道を見るにつけ、すでに大雨など自然災害は温暖化の進行で新たな局面に達したと言わざるを得ない。スコールのようなゲリラ豪雨や線状降水帯による激烈な降雨、雨季のような長雨など、ここは東南アジアや南米のジャングルかと疑いたくなる様ばかり。こうした傾向を前にしては、これまで数十年、数百年にわたり天災から逃れた場所でさえも、もはや安全とは言えないだろう。
かつて訪れたある農業研究施設では「米作に適した気候がどんどん北へ移っている」と耳にした。また瀬戸内の寿司屋では「高知県沖の黒潮に乗って北上するはずのカジキマグロが瀬戸内海へ迷い込むようになった」と大将が小首を傾げた。気象庁の研究によれば日本の平均気温はこれまでの100年間で1.24℃上昇したそうだ。将来的には地域によって年間の平均気温が1.1℃から4.4℃程度上昇するとの試算もあり、この変化を数字だけとらえて微小な変動ととるか、近年の苛烈化傾向にある大雨など自然災害の規模を鑑みて多大と受けとめるかで、われわれ人類の未来も大きく左右されるだろう。
井出ちゃんぽん本店には大雨に負けない万全の対策を施したうえで、多くのファンが慕う老舗の味を守り続けてほしい。
営業再開を待ちわびるいちファンとして声を大にする。
「がんばれ井出ちゃんぽん!!」
(文:バリカタ / 写真:特製ちゃんぽん(960円) )